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大海は濁らず(2025年9月)

小さい川は濁りやすく、大河は少しのことでは濁りません。心を広く持ち、自己の小さな考えにとらわれないようにすれば、心も濁りにくくなるものです。
自然は常に公平な立場にあって、人間や生物など個々の思惑にとらわれることがありません。したがって自然とともに生きる心を持てば、心は意識することなく大きく広くなります。
こうして濁りやすい心は次第に濁りがなくなります。自分の言い分、自分の立場にとらわれないことを心掛けることが、人として伸びる一つの条件です。

ある座談会でこんな質問を受けました。
「主人に女性ができまして、その女性に子供ができました。一時は腹も立ちましたが
私には子供がありませんので、その子供を引き取りたいと思いました。そこで女性と談判いたしましたが、その女性はどうしても子供を手放すとは申しません。主人の子供ですからこちらに引き取ってもいいと思いますがいかがでしょうか?」ということでありました。
その女性から子供を引き取り、今後その女性とご主人との間に関わりがないようにす
れば、それで一切は清算される。これができれば、あなたにとって一番都合のよい処置と思われます。
しかし、それでは相手の女性の立場を少しも考えられておりません。
自分の意見を通す前に相手の立場をよく察し、自分の言い分をひとまず心から取り去ることが、何物をも動かす到誠であると思います。
まず先方に対してお礼の心をお持ちになることが、あなた自身の心まで救うことになるでしょう。子供ができなかったら祖先から流れてきた血のつながりは絶えるところでした。血のつながりを伝えて頂いたのはその女性のほうです。
その方も涙を浮かべて清く輝く瞳を動かすことなく私の言葉を聞いておられました。あたかもその涙の瞳が、固い決意を物語るかのように思われたのです。
女性としてずい分辛いことだったでしょう。しかし、その辛さを切り抜けた時、人格に一段と輝かしい光を帯びるはずです。この辛い難関を乗り切って、人知れぬ悦びを心の奥深く味わってもらいたいと思いました。伸びる人は自分の立場、言い分にとらわれてはなりません。相手の立場を理解する素直さと、明るく優しい心が常に満ちあふれていなければなりません。心を広げて濁りを取ることを心掛けるのです。